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自己評価と他者からの評価のバランス

 心理学の分野ではジークムント・フロイトの精神分析に限らず自己を分割して分析することがある。日常生活でも自分を客観視することはあり、見ている(評価する)自分と見られている(評価される)自分に自己を分けている。前者を「主我」、後者を「客我」と呼ぶこともあるらしい。
 ジークムント・フロイトの「自我」「超自我」「エス」という分け方を採用して三者関係をハイダーのバランス理論に当てはめた場合については【自我・超自我・エスの三者間バランス】で述べた。自己を「評価する自分」と「評価される」自分に分けて他者を評価した場合の三者間バランスについては【「自信」のバランス理論による解釈】で述べた。ただし、どちらも自己が他者を評価する構図であり、「評価される」自分は「自分に評価される」自分である。「自信」との関係で重要な「自己評価」の高さは他者からの評価で決まる(参照)と考えられるので、他者からの評価も含めたバランスを考察してみる必要がある。

 例えば、自分のことを嫌っている人が好きな人に嫌われている場合を表す図1のような二者関係で、自己を「評価する自分」と「評価される自分」に分けて他者からの評価を含めて三者関係をハイダーのバランス理論に当てはめた場合の最も単純な図は図2のようになる。

図1 図2
図1
a:自己
c:他者
図2
a:評価する自分
b:評価される自分
c:他者

 図2は「好きな人に嫌われて自分のことが嫌いになった」と見ることができるし、「自分自身のことを嫌っている私のことを嫌ってくれているから彼のことが好き」と見ることもできる。前者は自然だが、後者は少し不自然である。しかし、図2はハイダーのバランス理論ではバランスの良い安定している状態である。
 では、同じくバランスの良い状態である図3の場合はどうだろうか。

図3 図4
図3
a:評価する自分
b:評価される自分
c:他者
図4
a:評価する自分
b:評価される自分
c:他者

 図3は「嫌いな人に好かれて自分のことが嫌いになった」と見ることができるし、「自分自身のことを嫌っている私のことを好きだから彼のことは嫌い」と見ることもできる。あり得ないわけではないが、やはり少し不自然である。
 「私のことを嫌っている人が好き」(図2)、「私のことを好きな人は嫌い」(図3)という状態になるのは、自己評価がマイナスの場合にバランス理論を適用したからであると考えることができるが、図4のように自己評価がプラスの場合にバランス理論を適用しても、「嫌いな人に嫌われているから自分のことが好き」となって、やはり少し不自然である。【自己評価の決まり方】で述べたように、私は、他者からの評価がプラスの場合は自己評価にプラスに働き、他者からの評価がマイナスの場合は自己評価にマイナスに働くと考えている。自己評価への影響の大小はあるが、自分のことを評価する他者のことが好きでも嫌いでも、影響の符号は同じである。
 では、自己評価と他者からの評価との関係でバランス理論は適用できないのであろうか。私は、適用しても良いが図2~図4のように単純に考えてはいけないのだと思っている。

 自己を「主我」と「客我」に分ける場合、通常は、「主我」は他者に評価されず「客我」は他者を評価しないのではないかと思われる。図2~図4の「評価する自分」と「評価される自分」はそのようになっている。【「自信」のバランス理論による解釈】で述べたように、私は、自己と他者との関係は異常な状態を除いて「評価する自分」も「評価される自分」も同じだと考えている。すなわち、「評価する自分」も他者から評価され、「評価される自分」も他者を評価すると考えた方が良いと思われる。そこで、意味が異なっていそうなので「主我」「客我」は使わず、自己を「自分を評価する自分」と「自分に評価される自分」に分けて、「自分を評価する自分」も他者から評価されて「自分に評価される自分」も他者を評価すると考えてバランス理論を適用することにする。「自分を評価する自分」も他者から評価されていることについては、二者関係の返報性で安定性を確認することになる。

 以下、8つのケースについて順番に見ていく。

図5-1
図5-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図5-2
図5-2
図5-3
図5-3
図5-4
図5-4

 自分のことを好きな人が好きな人に好かれている場合を表す図5-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図5-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図5-3と図5-4のようになり、図5-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図5-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図5-2を見ると、好きな人に好かれていて好意の返報性が成立していることが分かり、このままで安定している。
 図5-3はバランスの良い状態で、自分の「他者への評価」に自信を持っていることを表す。
 図5-4もバランスの良い状態で、自己評価をマイナスに変える必要はなく、他者への評価をマイナスに変える必要もない。

図6-1
図6-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図6-2
図6-2
図6-3
図6-3
図6-4
図6-4

 自分のことを好きな人が好きな人に嫌われている場合を表す図6-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図6-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図6-3と図6-4のようになり、図6-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図6-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図6-2を見ると、好きな人に嫌われていて好意の返報性が成立していないことが分かり、このままでは不安定なので他者への評価をマイナスに変える可能性がある。評価を変えない場合は悲しい状態である。
 図6-3はバランスの良い状態で、自分の「他者への評価」に自信を持っていることを表す。
 しかし、図6-4はバランスの悪い状態で、自己評価をマイナスに変えるか、他者への評価をマイナスに変える可能性がある。
 この場合は、図6-3で自分から他者へのプラスの評価をマイナスに変えてもバランスが良く、自分の「他者への評価」に対する自信は変わらないが、図6-3で a から b への自己評価をマイナスにすると、バランスの悪い状態になる。したがって、他者からの評価がマイナスのままであれば、自分から他者への評価がマイナスに変わると予想できる。

図7-1
図7-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図7-2
図7-2
図7-3
図7-3
図7-4
図7-4

 自分のことを好きな人が嫌いな人に好かれている場合を表す図7-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図7-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図7-3と図7-4のようになり、図7-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図7-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図7-2を見ると、嫌いな人に好かれていて返報性が成立していないことが分かり、このままでは不安定なので他者への評価をプラスに変える可能性がある。評価を変えない場合はちょっと失礼な状態である。
 図7-3はバランスの良い状態で、自分の「他者への評価」に自信を持っていることを表す。
 しかし、図7-4はバランスの悪い状態で、自己評価をマイナスに変えるか、他者への評価をプラスに変える可能性がある。
 この場合は、図7-3で自分から他者へのマイナスの評価をプラスに変えてもバランスが良く、自分の「他者への評価」に対する自信は変わらないが、図7-3で a から b への自己評価をマイナスにすると、バランスの悪い状態になる。したがって、他者からの評価がプラスのままであれば、自分から他者への評価がプラスに変わると予想できる。

図8-1
図8-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図8-2
図8-2
図8-3
図8-3
図8-4
図8-4

 自分のことを好きな人が嫌いな人に嫌われている場合を表す図8-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図8-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図8-3と図8-4のようになり、図8-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図8-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図8-2を見ると、嫌いな人に嫌われていて返報性が成立していることが分かり、このままで安定している。
 図8-3はバランスの良い状態で、自分の「他者への評価」に自信を持っていることを表す。
 図8-4もバランスの良い状態で、自己評価をマイナスに変える必要はなく、他者への評価をプラスに変える必要もない。

図9-1
図9-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図9-2
図9-2
図9-3
図9-3
図9-4
図9-4

 自分のことを嫌いな人が好きな人に好かれている場合を表す図9-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図9-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図9-3と図9-4のようになり、図9-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図9-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図9-2を見ると、好きな人に好かれていて好意の返報性が成立していることが分かり、他者との二者関係だけを見ればこのままで安定している。
 しかし、図9-3はバランスの悪い状態で、自分の「他者への評価」に自信がないことを表す。
 図9-4もバランスの悪い状態で、自己評価をプラスに変えるか、他者への評価をマイナスに変える可能性がある。
 しかし、図9-3で自分から他者へのプラスの評価をマイナスに変えてもバランスが悪く、図9-3で a から b への自己評価をプラスにしないとバランスの良い状態にならない。したがって、他者からの評価がプラスのままであれば、他者への評価がマイナスになったりプラスに戻ったり不安定な状態があるかもしれないが、最終的には自己評価がプラスに変わると予想できる。心理カウンセリングが成功したケースに当てはまりそうである。

図10-1
図10-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図10-2
図10-2
図10-3
図10-3
図10-4
図10-4

 自分のことを嫌いな人が好きな人に嫌われている場合を表す図10-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図10-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図10-3と図10-4のようになり、図10-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図10-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図10-2を見ると、好きな人に嫌われていて好意の返報性が成立していないことが分かり、このままでは不安定なので他者への評価をマイナスに変える可能性がある。評価を変えない場合は悲しい状態である。
 図10-3はバランスの悪い状態で、自分の「他者への評価」に自信がないことを表す。
 しかし、図10-4はバランスの良い状態で、自己評価をプラスに変える必要はなく、他者への評価をマイナスに変える必要もない。
 この場合は、図10-3で自分から他者へのプラスの評価をマイナスに変えてもバランスが悪く、図10-3で a から b への自己評価をプラスにしないとバランスの良い状態にならない。しかし、 a から b への自己評価をプラスにすると、図10-4がバランスの悪い状態に変わる。ただ、バランスの良い状態だとしても、好きな人に嫌われている状態で満足するのは難しい。嫌われているのだから好きにならなければ良いのだが、自己評価がマイナスのため、いったん嫌いになっても、また好きになるなど、不安定な状態が続くと予想される。他者からの評価がマイナスのままで、自己評価をプラスにすることも難しい。ドメスティック・バイオレンス(DV)や虐待の被害者はこのようなバランス状態かもしれない。

図11-1
図11-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図11-2
図11-2
図11-3
図11-3
図11-4
図11-4

 自分のことを嫌いな人が嫌いな人に好かれている場合を表す図11-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図11-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図11-3と図11-4のようになり、図11-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図11-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図11-2を見ると、嫌いな人に好かれていて返報性が成立していないことが分かり、このままでは不安定なので他者への評価をプラスに変える可能性がある。評価を変えない場合はちょっと失礼な状態である。
 図11-3はバランスの悪い状態で、自分の「他者への評価」に自信がないことを表す。
 しかし、図11-4はバランスの良い状態で、自己評価をプラスに変える必要はなく、他者への評価をプラスに変える必要もない。
 この場合は、図11-3で自分から他者へのプラスの評価をマイナスに変えてもバランスが悪く、図11-3で a から b への自己評価をプラスにしないとバランスの良い状態にならない。しかし、 a から b への自己評価をプラスにすると、図11-4がバランスの悪い状態に変わる。自己評価はマイナスのままで、嫌いな人に好かれていても気にせず、「好意の返報性により相手のことを好きになる」ということはない可能性がある。心理カウンセリングで失敗したケースに当てはまりそうである。

図12-1
図12-1
a:自分を評価する自分
b:自分に評価される自分
c:他者
図12-2
図12-2
図12-3
図12-3
図12-4
図12-4

 自分のことを嫌いな人が嫌いな人に嫌われている場合を表す図12-1のような二者関係を三者関係のバランスとして描き直すと図12-2のようになる。a にとってのバランスを抜き出すと図12-3と図12-4のようになり、図12-3は b が a と同じように他者を評価していることについてのバランスで、図12-4は b が他者に評価されていることについてのバランスである。
 図12-2を見ると、嫌いな人に嫌われていて返報性が成立していることが分かり、他者との二者関係だけを見ればこのままで安定している。
 しかし、図12-3はバランスの悪い状態で、自分の「他者への評価」に自信がないことを表す。
 図12-4もバランスの悪い状態で、自己評価をプラスに変えるか、他者への評価をプラスに変える可能性がある。
 しかし、図12-3で自分から他者へのマイナスの評価をプラスに変えてもバランスが悪く、図12-3で a から b への自己評価をプラスにしないとバランスの良い状態にならない。他者からの評価がマイナスのままで、自己評価をプラスにすることは難しいので、自己評価がマイナスのまま、相手のことを好きになったり嫌いになったり不安定な状態が続くと予想される。「嫌いな人に嫌われている」「嫌われているから嫌う」という悪意の返報性が成立しているので、相手に敵意を感じている状態が多いかもしれない。c に「社会」を当てはめると、自暴自棄になった犯罪者に当てはまりそうである。

 以上、他者への評価だけでなく他者からの評価も含めた8つのケースについてハイダーのバランス理論を当てはめてみた。自己評価がマイナスの場合の不安定さが示されていると思われる。自己評価がプラスになるまでは安定しないが、自己評価をプラスにするためには他者からの評価がプラスであると感じなければならない。ただし、自分が嫌っている人から好かれても図11-4のようにバランスが安定してしまうので、自己評価をプラスにするには「好きな人に好かれる」という状態が必要だろう。


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カテゴリー:疑似ソシオン理論

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