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バランス理論の数式表現

 ハイダーのバランス理論によると、好きな人が好きなものは好きになり、好きな人が嫌いなものは嫌いになりやすい。では、好きな人が二人いて、一方が好きなものをもう一方が嫌っていた場合、自分はそれを好きになるだろうか。それとも嫌いになるだろうか。するべきか否か迷っている行為について二人の友人に賛否を尋ねて、一方が賛成してもう一方が反対した場合、自分はどうするだろうか。

図1
図1

 図1のように、a は b のことも c のことも好きだが b は d が好きで c は d が嫌いな場合、a が d のことを好きになると、 b との関係ではバランスが良いが c との関係ではバランスが悪くなる。ここで c のことを嫌いになればバランスが良くなって安定するが、実際は b のことも c のことも好きなままで d に対する好悪感情が決まる。

図2 図3
図2
|Wab|>|Wac|
図3
|Wab|<|Wac|

 図2のように c よりも b の方が好きならば、c が d のことを嫌いでも a は b と同じように d のことを好きになると思われる。図3のように b よりも c の方が好きならば、b が d のことを好きでも a は c と同じように d のことを嫌いになると思われる。

 もしも b のことも c のことも同じように好き(|Wab|=|Wac|)ならば、図4や図5のように、b や c の d に対する好悪感情の強さの差が、a の好悪感情に影響すると思われる。
 図4のように b は d が好きでその思いが強いが c は d が嫌いだけどそれほど強く嫌っているわけではない場合、a は b と同じように d のことを好きになると思われる。図5のように c は d が嫌いでその思いが強いが b は d が好きだけどそれほど強く好きなわけではない場合、a は c と同じように d のことを嫌いになると思われる。

図4 図5
図4
|Wbd|>|Wcd|
図5
|Wbd|<|Wcd|

 図2、図3のように b と c の d に対する思いの強さの差を気にする必要がない場合は a の b や c に対する思いの強さの差だけが a の d に対する好悪感情に影響し、図4、図5のように a が b のことも c のことも同じくらい好きな場合は b と c の d に対する思いの強さの差が a の d に対する好悪感情に影響すると思われる。
 問題は図6のように a は c よりも b の方が好きで b は d が好きだけどそれほど強く好きなわけではなく c は d が嫌いでその思いが強い場合である。図2や図5のように単純に考えるわけにはいかない。そのような場合に数式を使って計算する必要があると思われる。数式を使ってハイダーのバランス理論を表現できれば、三者関係を基本にして多人数での関係をシミュレーションできるだろう。

図6
図6
|Wab|>|Wac|
|Wbd|<|Wcd|

 図6のような場合に思い付く a の d に対する荷重(Wad)を求める最も単純な式は(1)のようなものだろう。

 Wad|a = Wab|a・Wbd|a + Wac|a・Wcd|a  ・・・(1)

 式(1)で「Wcd|a=-Wbd|a < 0」なら、「(Wab|a-Wac|a) > 0」で「Wad|a > 0」となって図2が説明できる。「(Wab|a-Wac|a) < 0」で「Wad|a < 0」となって図3が説明できる。「Wab|a=Wac|a > 0」なら、「(Wbd|a+Wcd|a) > 0」で「Wad|a > 0」となって図4が説明できる。「(Wbd|a+Wcd|a) < 0」で「Wad|a < 0」となって図5が説明できる。図6については式(1)に各荷重の値を代入して計算し、Wad|a の符号を確認すれば a の d に対する評価がプラスかマイナスかが分かる。

 式(1)は図7のような三者関係におけるハイダーのバランス理論を数式で表すと式(2)のようになることを前提にしている。
 しかし、Wac|a が Wab|a に比例するかどうかはまだ明らかではなく、Wbc|aに比例するかどうかも明らかではない。したがって、ハイダーのバランス理論を数式で表現する場合は式(3)のような一般式が好ましいと思われる。

図7
図7
Wac|a = Wab|a・Wbc|a ・・・(2)
Wac|a = η・f(Wab|a)・g(Wbc|a) ・・・(3)
η は正数)

 式(3)のような一般式を使うと、式(1)は次の式(1’)のようになる。

 Wad|a = η[f(Wab|a)・g(Wbd|a) + f(Wac|a)・g(Wcd|a)]  ・・・(1’)

 さて、式(3)の f(Wab|a) はどのような数式になるだろうか。最終的には実験などで見つけることになるだろうが、私の日常生活における観察から、例えば式(4)のような数式が考えられる。

 f(Wab|a) = p・[exp(q・Wab|a)-exp(-r・Wab|a)]  ・・・(4)
 (p,q,r は正数、q > r)

 式(4)のイメージを確認するために p,q,r を変えてグラフに表すと、図8のようになる。

図8
図8

 図8に描かれた f(Wab|a) を使って式(3)の Wac|a を求めると、b のことを高く評価しているほど c を評価する時に b の c に対する評価(Wbc|a)に影響されやすいことになる。b のことを低く評価している場合(Wab|a < 0)も同じで低く評価しているほど c を評価する時に b の c に対する評価(Wbc|a)に影響されやすいが、高く評価している場合(Wab|a > 0)よりは影響力が小さい。「Wab|a=0」付近を拡大すると図9のようになる。

図9
図9

 式(3)の g(Wbc|a) も最終的には実験などで見つけることになる。私の日常生活における観察からでは良さそうな数式が思い浮かばなかったが、図10のようにいろいろと考えられる。

図10
図10

 図8~図10の共通点は第1象限と第3象限だけが使われていて第2象限と第4象限が使われていないことである。すなわち、Wab|aの符号と f(Wab|a) の符号は同じで、Wbc|a の符号と g(Wbc|a) の符号も同じである。そのことで式(3)がハイダーのバランス理論でバランスの良い安定した条件を満たす式になっている。すなわち、次のようになっている。

・Wab|a > 0 かつ Wbc|a > 0 ならば、Wac|a > 0
・Wab|a > 0 かつ Wbc|a < 0 ならば、Wac|a < 0
・Wab|a < 0 かつ Wbc|a < 0 ならば、Wac|a > 0
・Wab|a < 0 かつ Wbc|a > 0 ならば、Wac|a < 0

 ハイダーのバランス理論では、バランスの良い安定した状態を求める結果、次のようにもなる。

・Wac|a > 0 かつ Wbc|a > 0 ならば、Wab|a > 0
・Wac|a < 0 かつ Wbc|a < 0 ならば、Wab|a > 0
・Wac|a > 0 かつ Wbc|a < 0 ならば、Wab|a < 0
・Wac|a < 0 かつ Wbc|a > 0 ならば、Wab|a < 0

 これを数式で表したら、式(5)のようになるだろうか。

 Wab|a = η・f(Wac|a)・g(Wbc|a)  ・・・(5)
 (η は正数)

 f(Wac|a) は式(3)における f(Wab|a) と同じ数式で良いだろうか。ηも式(3)と同じで良いだろうか。b への荷重(Wab|a)か c への荷重(Wac|a)かの違いはあるが、a から他者への荷重であることは同じである。式(5)の f(Wac|a) は式(3)における f(Wab|a) と同じ数式で良いのではないかと思われる。ただ、これも、実験などによって確認する必要があるだろうし、式(5)を式(3)に代入して得られる次の式(3’)が成立するかどうかも確認する必要があるかもしれない。成立しないとしたら、式(3)と式(5)について再考が必要である。

 Wac|a = η・f[η・f(Wac|a)・g(Wbc|a)]・g(Wbc|a)  ・・・(3’)

 他にも、f(Wac|a) と g(Wbc|a) の数式が明確になったら確認すべきことがある。

図11
図11

 図11のような三者関係に式(3)を用いると次のようになる。

 Wac|a = η・f(Wab|a)・g(Wbc|a)  ・・・(6)
 Wbc|b = η・f(Wba|b)・g(Wac|b)  ・・・(7)

 式(6)は a にとってのバランスで、式(7)は b にとってのバランスであるから、Wbc|b と Wbc|a が同じ値だとは限らないし、Wac|a と Wac|b が同じ値だとも限らない。しかし、a と b が互いに自分の思いを伝え合うと、一致しやすいだろう。一致するとしたら、式(7)を式(6)に代入して次の式(6’)のようになり、式(6)を式(7)に代入して式(7’)のようになる。

 Wac|a = η・f(Wab|a)・g[η・f(Wba|b)・g(Wac|b)]  ・・・(6’)
 (∵ Wbc|a=Wbc|b)
 Wbc|b = η・f(Wba|b)・g[η・f(Wab|a)・g(Wbc|a)]  ・・・(7’)
 (∵ Wac|b=Wac|a)

 安定した状態であれば、式(6)と式(7)が矛盾することはなく各荷重の値が決まるだろう。
 しかし、図12のような三者関係だったらどうなるであろうか。

図12
図12

 図12は a と b との間に返報性が成立していない状態である。お互いの頭の中では返報性が成立していたとしても、ハイダーのバランス理論では相手の自分に対する感情は自分にとってのバランスに影響せず自分の相手に対する感情だけがバランスの理論の考察に用いられるので、「Wab|a > 0 かつ Wba|b < 0」は起こりうる。すなわち、好きな人に好かれていると思ったら実は嫌われていて、嫌いな人に嫌われていると思ったら実は好かれているということは頻繁に起こり、ハイダーのバランス理論では、相手が自分のことをどう思っているかは関係なく、自分が相手のことをどう思っているかによってバランスが決まる。
 図12は a にとってはバランスの良い状態であるが、b にとってはバランスの悪い状態である。b はバランスの良い状態にしようと式(7)に従って「Wbc|b < 0」に変えるだろう。すると、今度は a にとってバランスの悪い状態になる。だから a はバランスの良い状態にしようと式(6)に従って「Wac|a < 0」に変えるだろう。すると、またもや b にとってバランスの悪い状態になり、b は式(7)に従って「Wbc|b > 0」に変える。またもや a にとってバランスの悪い状態になったので、a は式(6)に従って「Wac|a > 0」に変える。これで図12に戻った。
 このように、図12の状態では式(6’)と式(7’)のような代入を繰り返すことになる。その結果、各荷重の値は収束するか発散する。収束するとしたらどのように収束するのか、発散するとしたらどのように発散するのか、確認することで分かることがあるかもしれない。実際には、お互いの c に対する思いがころころ変わることでお互いに相手の自分に対する本当の思い(Wab|a、Wba|b)に気付き(Wab|b=Wab|a、Wba|a=Wba|b)、返報性によって Wab|a や Wba|b が変わって安定するのだろう。


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カテゴリー:疑似ソシオン理論

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