SSブログ

【新】バランス理論の数式表現 その9(返報性)

 二者間の好悪感情は三者間のバランス理論の他に二者間の返報性がある。

socion111.gif socion015.gif

 自分のことを好きな人を好きになることはできるが、自分のことを嫌っている人を好きになるのは難しい。自分のことを愛してくれる人のことは愛しやすいが、自分のことを憎んでいる人のことを愛するのは難しい。お中元やお歳暮をもらうと自分もお中元やお歳暮を贈らないといけないような気になる。プレゼントをもらうとプレゼントを返さないといけないような気になる。親切にしてもらうと自分も相手に親切にしたくなる。「好意の返報性」とか「互恵性」とか呼ばれる有名な心理である。

socion005.gif

 a が b に好意を示す(ΔWab > 0)と b は a に好意を返す(ΔWba > 0)傾向がある。ただし、b が a から好意を受け取ったと思わない(ΔWab|b ≦ 0)と b は a に好意を返そうとは思わない(ΔWba|b ≦ 0)。a から好意を受け取ったと b が思う(ΔWab|b > 0)と、b は a に好意を返そうと思う(ΔWba|b > 0)だろう。
 式で表すと次のようになると思われる。

 ΔWba|b = ΔWab|b  ……(1)
 ΔWab|a = ΔWba|a  ……(2)

 「=」としたのは、通常は受け取った好意以上の好意を返そうとは思わないだろうし、受け取った好意以下の好意で済まそうともしないと考えられるからである。「ΔWab|a < ΔWba|a」だと a は b に申し訳ないような気になるだろうし、「ΔWab|a > ΔWba|a」では a は損をした気になるだろう。だから a はできるだけ「ΔWab|a = ΔWba|a」となるようにするだろう。相手の好意と同程度の好意を返す。ギブアンドテイクである。

 ただし、「ΔWab|b = ΔWab|a」とは限らないから注意が必要である。a が b に喜ぶと思って贈ったプレゼントが、b にとっては嬉しくないものかもしれない。

好意の返報性、悪意の返報性

 好意の返報性を一時的な行為と考えるか好悪感情の状態と考えるかで表記が異なるだろう。一時的な行為であれば上記引用のように ΔWab だが、好悪感情の状態であれば Wab(t) が良いと思われる。
 ここでは好悪感情の状態として、好意の返報性をバランス理論の数式表現を用いて表してみる。

 これまでハイダーのバランス理論を数式表現する際に、例えばaのbに対する好悪感情の荷重は次の式を仮定した。

\( \begin{cases} W_{ab}(t+dt) = \dfrac{W_{aa}(t) \cdot W_{ab}(t) + W_{ac}(t) \cdot W_{cb}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{ac}(t)|}\cdots(1)\\ \\ W_{ab}(t+dt) = \dfrac{W_{aa}(t) \cdot W_{ab}(t) + W_{ac}(t) \cdot W_{bc}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{ac}(t)|}\cdots(2)\\ \\ W_{ab}(t+dt) = \dfrac{|W_{aa}(t)| \cdot W_{ab}(t) + W_{ac}(t) \cdot W_{cb}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{ac}(t)|}\cdots(1')\\ \\ W_{ab}(t+dt) = \dfrac{|W_{aa}(t)| \cdot W_{ab}(t) + W_{ac}(t) \cdot W_{bc}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{ac}(t)|}\cdots(2')\\ \end{cases} \)

 式(1)は「aはcが好き。cはbが好き。だからaはbが好き」というバランスを表したもので、式(2)は「aはcが好き。bもcが好き。だからaはbが好き」というバランスを表したものである。この式(2)のcをaに置き換えることで好意の返報性を表せるのではないかと思われる。

socion392.png socion393.png

\( \begin{align} W_{ab}(t+dt) &= \dfrac{W_{aa}(t) \cdot W_{ab}(t) + W_{aa}(t) \cdot W_{ba}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{aa}(t)|}\\ \\ &= \dfrac{W_{aa}(t)}{|W_{aa}(t)|} \cdot \dfrac{W_{ab}(t) + W_{ba}(t)}{2}\\ \\ &= \dfrac{W_{ab}(t) + W_{ba}(t)}{2}\cdots(W_{aa}(t)>0)\cdots(3)\\ \\ &= - \dfrac{W_{ab}(t) + W_{ba}(t)}{2}\cdots(W_{aa}(t)<0)\cdots(4)\\ \end{align} \)

 式(2')のcをaに置き換えると次のようになる。

\( \begin{align} W_{ab}(t+dt) &= \dfrac{|W_{aa}(t)| \cdot W_{ab}(t) + W_{aa}(t) \cdot W_{ba}(t)}{|W_{aa}(t)| + |W_{aa}(t)|}\\ \\ &= \dfrac{|W_{aa}(t)| \cdot W_{ab}(t) + W_{aa}(t) \cdot W_{ba}(t)}{2 \cdot |W_{aa}(t)|}\\ \\ &= \dfrac{W_{ab}(t) + W_{ba}(t)}{2}\cdots(W_{aa}(t)>0)\cdots(3')\\ \\ &= \dfrac{W_{ab}(t) - W_{ba}(t)}{2}\cdots(W_{aa}(t)<0)\cdots(4')\\ \end{align} \)

 式(3)と式(3')は同じ式である。「aはaが好き。bもaが好き。だからaはbが好き」という状態を表している。
 では、式(4)と式(4')はどちらが現実に近いだろうか?
 自己評価がマイナスの場合、ハイダーのバランス理論に従うと「aはaが嫌い。bはaが好き。だからaはbが嫌い」や「aはaが嫌い。bもaが嫌い。だからaはbが好き」が安定した状態である。好かれると嫌って、嫌われると好きになるという自己評価がプラスの人から見たら異常な感情になる。
 そのことを踏まえて式(4)を見ると、bに好かれてもいないし嫌われてもいない場合( Wba(t)=0 )にaがbを思う気持ちはプラスになったりマイナスになったりしながら半減( Wab(t+dt)=-Wab(t)/2 )を繰り返す(図1、図2)。aがbのことを好きな場合( Wab(t)>0 )にはaの好きな気持ちよりもbに嫌われれば( Wba(t)<-Wab(t)<0 )bのことが好きなまま( Wab(t)>0 )で、bに好かれると( Wba(t)>0 )bのことが嫌いになる( Wab(t)<0 )。aがbのことを嫌いな場合( Wab(t)<0 )にはaの嫌いな気持ちよりもbに好かれれば( Wba(t)>-Wab(t)>0 )bのことが嫌いなまま( Wab(t)<0 )で、bに嫌われると( Wba(t)<0 )bのことが好きになる( Wab(t)>0 )。

socion394.png
図1 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=0, Wbb(0)=1)

socion395.png
図2 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=0, Wbb(0)=1)

socion396.png
図3 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=-1, Wbb(0)=1)

socion397.png
図4 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=1, Wbb(0)=1)

socion398.png
図5 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=1, Wbb(0)=1)

socion399.png
図6 式(4)でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=-1, Wbb(0)=1)

 一方、式(4')を見ると、bに好かれてもいないし嫌われてもいない場合( Wba(t)=0 )にaがbを思う気持ちは半減( Wab(t+dt)=Wab(t)/2 )を繰り返す(図7、図8)。aがbのことを好きな場合( Wab(t)>0 )にはaの好きな気持ちよりもbに好かれると( Wba(t)>Wab(t)>0 )bのことが嫌いになり( Wab(t)<0 )、bに嫌われると( Wba(t)<0 )bのことが好きなまま( Wab(t)>0 )である。aがbのことを嫌いな場合( Wab(t)<0 )にはaの嫌いな気持ちよりもbに嫌われれば( Wba(t)<Wab(t)<0 )bのことが好きになり( Wab(t)>0 )、bに好かれると( Wba(t)>0 )bのことが嫌いなまま( Wab(t)<0 )である。

socion400.png
図7 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=0, Wbb(0)=1)

socion401.png
図8 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=0, Wbb(0)=1)

socion402.png
図9 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=1, Wbb(0)=1)

socion403.png
図10 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=2, Wba(0)=-1, Wbb(0)=1)

socion404.png
図11 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=-1, Wbb(0)=1)

socion405.png
図12 式(4')でのWab(t)の変化(Waa(0)=-1, Wab(0)=-2, Wba(0)=1, Wbb(0)=1)

 図1~図12はaのbに対する好悪感情の荷重( Wab(t) )をbのaに対する好悪感情の荷重( Wba(t) )と比較するために、bのaに対する好悪感情の荷重を固定( Wba(t)=Wba(0) )してある。
 式(4)も式(4')もあり得る気がするが、不安定さを表しているのは式(4)の方である。

 式(4)と式(4')のどちらかを選択すれば、それに合わせて式(2)と式(2')のどちらかを選択することになる。その件については、別の記事で考察したい。


コメント(0) 
カテゴリー:疑似ソシオン理論
共通テーマ:学問

読者の反応

コメント 0

コメントを書く 

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。
captcha

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。